牛に膽あり.鹿馬これを欠く.足らぬ故にこれを馬鹿と呼ぶ.牛膽に玉のやうなるものあり.名付けて牛黄.神農本草経に驚癇寒熱,熱盛狂痙を治し,邪を除き鬼を逐うと.また,左経記に河原者の獲りたる牛の珠の事あり.牛黄を獲るは秘伝にして他言無用の秘事なり.以て秘すべし.秘すべし.ヲンロケンジンバラキリクソワカ.
2012年11月8日木曜日
2012年11月4日日曜日
橘猪弼
橘猪弼(たちばなのいひつ,たちばないのすけ)
聖徳太子の伝説に『推古天皇三年595年高句麗僧恵慈来朝.橘猪弼に療馬の事を学ばせる』とある.伝説であるから出典は明らかでない.橘猪弼をインターネットで検索してみると,「獣医史のロマン」とある.このタイトルには些か心当たりがある.記憶を手繰りながら「日本獣医史学雑誌」を捲ると,昭和五十八年の第十七号の『研究ノート』にこれがあった.著者は日本獣医史学会の理事でお雇い外国人教師ヨハネスヤンソンの研究家である.この『研究ノート』は研究者の著したものであるから,出典を明らかにしている.参考文献は以下の通りである.
古事記 岩波書店版
日本書記(紀の誤り) 岩波書店版
伊沢凡人 稲羽の素兎 伝承の医学 古医学月報 1974
12月号
日本の歴史 中央公論社版
坂本太郎 聖徳太子 吉川弘文館版
江上波夫・森浩一対論 騎馬民族説
白井恒三郎 日本獣医学史 文栄堂
松尾信一 古文書にみるわが国畜産の歩み
篠永紫門 日本獣医学教育史
毎日新聞学芸欄
駒井和愛 考古学概説 世界社
参考文献中,一次史料とするものは菊池東水著「解馬新書」の序文で,その他は一般書,文庫本や新聞のコラムで一次史料とはならない.因みに「日本書紀」巻第二十二推古天皇の件には,聖徳太子が高麗の僧慧慈に仏法を習ったとはあるが,橘猪弼の名前は何処にも登場しない.また,参考文献とする「白井日本獣医学史」「篠永日本獣医学教育史」の橘猪弼は出典・一次史料を明らかにしていない.従って,『研究ノート』の著者が橘猪弼の存在を明らかにする史料は菊池東水著「解馬新書」序文のみとなるが,著者はその書を参考文献に掲げていないし,文中で説明もしていない.また,「
白井日本獣医学史」は平仲国の件で述べたように「日本馬政史」に採用されなかった真偽の明らかでない史料を編纂したものである.
手許の菊池東水著「解馬新書」は嘉永五年孟春 門人 越後長岡 長澤茂昭の書を村田金吾が安政二年の正月に書写したものであるが,嘉永四年十一月自序に『高麗僧慧慈来令侍臣橘猪弼学療馬・・・』と記している.
橘の姓は葛城王・橘諸兄の母 県犬飼三千代がたまわったもので,奈良時代七一〇年以降の事である.聖徳太子の出生は五七四年で活躍するのは六百年代の始め頃であるから,聖徳太子の時代には橘姓の人物が存在する可能性は少ない.
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