2009年11月6日金曜日

本潅順は本潅頂

長陽幕下・村井句聴子書写馬療治書に題箋書名「本潅順」がある.書の中の書名は「本潅頂」.言葉の由来は額に水を潅ぐ密教の儀式.合格証書のようなもの.馬と仏教は何の関係もなさそうに見えるが,『馬経大全』を持ち帰った僧は弘法太子こと空海.わが国密教の祖で漢土で印度僧に真言佛経を学んでいる.もう一箇所密教が伝わった所はチベット.ここでは馬は風の馬.谷から吹く風に乗って幸せを運ぶ.五色の旗のはためくタルチョーやルンタの世界.古墳時代に海を渡って来たモンゴル系の馬とは,まさにこのチベット密教の文化を持った馬だったのである.南船北馬,北の馬の療治術は司牧安驥集として古代仏教とともに大陸より伝わり,仮名安驥集として伝えられている.わが国に馬療治の事が伝わるのは三度で,最初が古墳時代,次が弘法太子の時,最後が近世の徳川吉宗の頃.明治は既に西洋の馬になっている.これらの事を確認するために本潅頂に記される病名を「日葡辞典」で調べて見た.全て記載がある.本潅頂の内容は近世以前に作られた事は明らかである.古墳時代の牛馬の療治については,わが国の書にはもはや記載が無い.後魏の「斉民要術」を紐解くのみである.

2009年11月4日水曜日

『日葡辞書』の家畜療治・皮革関連言葉

1603年 日本イエズス会刊 『日葡辞書』の家畜療治・皮革関連言葉
Yetta ゑった 色々な仕事の中でも死んだ馬や牛の皮を剥ぎ,その皮で様々な物を作るのを職とする身分の卑しい人々.Yeta 同じ
Yedo 穢土 穢れたる国 娑婆世界 現世
Cottoi 特牛去勢してない牡牛.または純血種の牛
Facro 伯労 百舌鳥
Bacro 博労 馬の仲買人,すなわち馬の売り買いにたずさわる人

●Facuracu 伯楽 家畜の病気をなおす人

Bocuguiu 牧牛 すなわちMaqino vxi
Bocudo 牧童 Vxicai varaua
Bocuji  牧士 牛やその他の家畜の牧人
Bocuyo  牧羊 羊飼うこと,または羊飼
Boguiu  牡牛 Cotoino Vxi
Cauaguinu 革衣
Cauago  皮籠 日本で作るある形の皮製の籠
Cauagoromo 皮衣
Cauaqiri 針灸療治の始め
Cauatabi 革単皮 革製のTabis
Cauaya 皮屋 帯皮製造人の家.Tabis 造りの家
Cauaya  皮屋 死んだ獣や牛の皮を剥いで皮籠を作ることを業とする人 Cauaranomono
Cauabacama 革袴
Itamegaua 撓皮 まだ鞣していない皮で毛はないが強くて固いもの.皮籠の皮など
Cauaranomono 河原の者 皮屋に同じ.死んだ獣の皮を剥ぐ者であり,また,癩病やみの者に対する監督権を持つ者
Guiu 牛馬 牛家 牛面 牛肉 牛頭 牛羊 Guiuに雄牝の区別なし
Qegare 穢れ 汚れ 不潔 穢れ,るる,れたは血と悪口の穢れ.穢し,す,いたは名を穢す.
Qe 普通の 日常のもの 複合語以外には用いられない.気は気配の気
Qetba 結馬 大便をし兼ぬる馬
Saumauaxi 猿回し
Sarunamexi 猿の鞣革
Chori 長吏 他の人が認めている頭.ゑった 河原の者の頭
Chaxen 茶筅 身分の記載なし.宮番・番太も.番はあり.

フランシスコ・シャヴィエルは1549年から日本で布教活動を開始.当時の宣教師には聴罪師と説教師があった.『日葡辞典』は宣教師の語学学習の為に1580年頃から長崎のセミナリオ,コレジオで編纂が始まり,1590年に発明された印刷術によって刊行された.1603年は徳川家康が征夷大将軍になった年で,中世と近世の境目の時である.
学而不思則罔